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一歩踏み込んだ瞬間、アレクは空間がぐにゃりと歪んだかのような感覚に襲われた。
『なんだ…?』
後ろを振り向くが、別段変わった様子もなく、先ほどまで立っていた場所もきちんと見える。
アレクは首を傾げながら、奥へと進んだ。
奥へ進み始めてしばらく、アレクはこの森が何か変だという事に気が付いた。
森の生き物どころか、魔物にさへも出くわさないのだ。
魔物はこのような森や洞窟を住みかにしている事が多いため、出くわさないワケがないのだが…
『聖域なのか?』
聖なる土地であれば、魔物が出ないのも頷ける。
しかし、そこで商人の言葉が蘇る。
『濃い霧で迷ったか、魔物に襲われたか…』
魔物がいない。それならそれでおかしな所がある。
この森から帰った者はいない。
なら、帰らなかった者はどこにいる?
歩けども、歩けども、死体はおろか、行き倒れた者にすら出くわさない。
おかしい……
どこかに村があるのか?
ふと遠くの方にボンヤリ塔があるのが見えた。
歩く早さが自然と早くなる。
が、それから数時間…日はすっかり暮れてしまったのに対し、塔との距離は一向に縮まる気配はなかった。
仕方なく、アレクは野宿をすることに決めた。
『見えてからかなり経つのになんで着かないんだ?』
火をおこし、途中で見付けた木の実をかじりながら、アレクは不思議に思った。
それに、行き倒れた者がいない=村があるのだとしたら、森で迷う前にたどり着けるハズ…
アレクは今まで歩いてきた方向を見た。
そこに道らしい道はなく、うっそうと茂った木々があるだけだ。
来た道を戻ろうにも戻れそうにない。
『しかも…』
アレクは持たれかかって座っている木の幹の頭上ら辺を見やって溜め息を着いた。
『なんでだ?』
そこには最近付けられたと思われる刀傷がついていた。それはアレクがこれから進もうとしている木の幹全てに着いている。
『どう見ても、俺がつけた目印だよなぁ…』
迷わないように、目印をつけて歩いていたのだが、万が一、他にも森へ入った者がいたときの用心に、目印の傷には特徴を持たせてあるので、間違いない。
『俺、迷った?』
そうアレクは迷っていた。
何かの力によって…
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