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朝日が昇り、辺りが白んで来た頃、アレクはむくりと起き上がった。
パタパタと土の汚れを叩く。
『どうすっかなぁ…』
アレクはぼやいた。
布団がわりにしていたマントをはおり、枕がわりにしていた剣を背中に背負う。
『進むか、戻るか』
アレクは昨日見上げた目印を見て、考え込むように顎に手を当てた。
ちらっと後ろを見やる。
そっちは鬱蒼(うっそう)と茂った森。
なんとなく、前へ進めば無限回廊、後ろへ戻れば遭難のイメージが浮かぶ。
『………進むか…』
ここは普通の森ではない。
それは昨日一日歩いた結果と、今の現状が物語っている。
多分どっちに進んでも同じだろう。
なら進んだ方が、なんぼかマシだ。
それに、進む先には目印がある。
もし、あの塔にたどり着けなかったとしても、森の入り口ぐらいには戻れる可能性がある。
アレクは意を結すると一歩を踏み出した。
『?』
途端に押し寄せる、ぐにゃりと空間が揺らぐような感覚。
嫌な予感がして、ゆっくり後ろを振り返ってみる。
『げっ!』
思わず、顔をしかめた。
さっきまでの鬱蒼とした森が消え、道が現れていたのだ。
それだけならまだ良い。
しかし問題なのは、昨日火を焚いた跡さえも消えてしまった、その道ぞいの木々には、前方と同じく、自分がつけた目印が延々とついていたのだった。
『まじか…?』
アレクは唖然と呟いた。
けれども、足は歩き出していた。
前へ…と…
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