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夜が涙を零した。
流れるそれに、人は願いを込めて、祈るという。
「他力本願と嗤うか、それとも…」
資料の束を手に、エースが呟く。
今夜とった宿の屋根の上。塗りたくった黒に、点々と光る星々を見上げれば、溜息が漏れた。
手に持っているのは、昼間海軍に潜入して得た極秘資料だ。
それには、"あの男"の動向についての詳細が書かれている。
成る程、海軍も馬鹿ではなかったらしい。
この資料から計算すると、"その一味"の現在の居場所はここの隣町だ。
背中の髑髏が囃し立てる。
そうだ。本当はすぐにでもそこに行って、目的を果たすべきである。
それなのに。
夜が明けたら、と、こんなところで空を見上げているのだ。
―――星に願いを。
他力本願か。
それとも、藁をも縋る、灼けつかんばかりの想いか。
或いは、ぶつけようのない、衝動か。
エースは、誤魔化しようの無い焦燥を抱えていた。
ぐるぐると渦を描くそれは、今にも喉を突き破らんばかりに、腹の中で暴れまわっている。
頭を、過ぎるのは。
自分の心酔する偉大な男のこと。
誇り高い仲間達。
そして、
そして。
――決意の朝に――
~生 寂~
踏みしめる隣町の土は、少しだけ、埃っぽかった。
敗けるつもりなど、毛頭ない。
しかし、簡単に勝てる相手でないのは解っていた。
アイツは、機を窺っていたのだ。
息を潜めて、まるで、闇のように。
結局、星には何も願わなかった。
そんな暇がなかったのだ。
記憶の中にある、あののどかな村の風景を思い出すのに忙しくて。
ふと、無邪気な笑顔が浮かぶ。
なァ、親愛なる出来の悪ィ弟よ。
「待てよ、ティーチ。探したぞ……!!!」
おれは此処を越えて、
『来いよ、高みへ』
必ず、待ってるから。
END
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