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「はぁっ……はぁっ」
俺は、いつか祖父が言っていたことを思い出していた。
『月は夜の我々を守ってくれているんだ。だから、月が無い日は、警戒しないといけないんだよ?』
幼き日の、小さな記憶。
何故そんな記憶が今ごろになって出てきたのだろうか。異変が起こってしまったその後に。
「俺は……」
気付けは家を飛び出していたんだ。妻と子供を、置いて。
手にはこの前免許を取ったばかりの小さな猟銃を。心には、後悔の念を持って。
「なんで……」
何故、祖父はこのことを教えてくれなかったんだろう。月の無い夜、世界に起きるこの異変を。
ソレは、突然俺を襲ってきた。手に生えた鈎爪で、確実に、頭を狙って。
そのまま逃げてきてしまった。だから、ソレが一体何なのか、どんな姿形をしているのか、正直わからない。
妻は、そして子供は、一体どうなったんだろう。やつらの胃袋に、おさまってしまったのだろうか。
「いや!!」
そんなこと、あるはずがない。あっては、ならない。
こと……。
暗闇の中、物音が聞こえてきた。
俺はそちらに銃口を向け、その姿勢のまま固まる。
来るならこい。向かえうってやる!!
「ま、まて!! 人間だ、俺は人間だ!!」
物音のしたほうから誰か歩いてきた。
ひょろひょろとした、電信柱を連想させるような、汚い男。
「名を名乗れ」
だが人間とて、油断はできない。
『敵』は、人間だからかもしれないからだ。
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