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「飛鳥…は…俺が死神になったとか言ったら怒るんだろうな…」
いつの間に、飛鳥は失明していたのだろう。
それでも、きっと怒った時の口調は変わらない。
事実を辛辣にずらずらと並べ立てる、あの独特な口調。
少しだけ懐かしくて、ふと苦笑が漏れる。
取留めのない感傷に柄にもなく浸っていると、どたんばたんと廊下から乱暴な音がだんだん近寄ってくるのに気づいた。
「龍、珍しい客が来たぞ」
ドア越しのくぐもった声に龍はきょとんとその場で動きを止める。
「客?」
更にどったんばったんと騒々しい音が響いて、死神が悲鳴というか奇声というか、筆舌に尽くし難い声が聞こえてくる。
「ちょ、待て、そっちは仕事中…!っておい!」
ドバターン、ともの凄い勢いでドアが蹴り開けられる。
流石に音にびっくりして、振り返った。
髪を振り乱し、パジャマ姿で目の下には見事な隈…絵に描いたような典型的病人姿がそこにあった。
「ちょっと龍!飛鳥の寿命が三日後ってどういうこと!?」
一瞬誰かと思ったが、口調から記憶の棚の底から引っ張り出せる者が一人だけいた。
「寿命に歪みが出ただけだ。今更ドタバタしたところで何も変わらない」
「そうじゃなく」
ずい、と詰め寄られて思わず仰け反る。
女は、人間界だけでなく神の括りの中でも強いらしい。
ある意味、男の最大の弱点は女かもしれないと思う。
「何で突然命日予定日が三日後なんて言いに来るなんて無神経なこと…!」
怒りバロメーターの針が振り切れている状態のこいつを黙らせられる人がいたら、土下座してでも頼みたい心境だ。
「あー…。それ、そっちの死神がやらかしたんだろ」
これ以上その怒りの矛先が自分に向くのは嫌なので、龍はあっさり死神に責任転嫁した。
そうするとこれまた単純なことに、くるりと百八十度矛先が変わった。
「へーえ…折角病人の身体まで使って飛鳥の面倒見てきた私の努力を水の泡にしてくれたわけねー」
「えーと、いや、その…」
ごにょごにょと口の中で言い訳を並べている死神に、二人分の棘々しい視線がグサグサと容赦なく突き刺さる。
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