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泣きたくなった。
どこまでも、飛鳥は飛鳥のまま。
これだけは変わっていなかった。
あの時から、時を止めてしまったかのように。
「本当に、それでいいのか」
もっと。
俺が叶えられないくらいの我侭を押し付けてきてくれたら…気が楽になるのに。
「最後くらい、自分が生きてきた世界を、見たいんです…!」
そんな声で、俺の心を抉らないで欲しい。
それ以上聞きたくなくて、遮るように口を開いた。
「分かった。…十一月十七日の夜半から明け方にかけて、視力を戻します。それで、いいですか」
こくん、と頷きが返ってきて…もう念押しの理由も、失せる。
「…そろそろ休んで下さい。看護師の巡回もあるでしょうし」
申し合わせたように、遠くの廊下から湿った足音が近づいてくるのが聞こえた。
弾かれたように踵を返した飛鳥だったが、病室に戻るのを少し躊躇う素振りを見せる。
もう一度言葉で促すと、渋々といった体で飛鳥は病室へと戻っていった。
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