流星群

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今度こそ本当に意識的な嘆息が漏れた。 「あんたに見抜かれるなんて最悪。…いーの、死ぬ前なんだから具合悪くて当然」 当然なのかどうかも自信はなかったが、この際どうでもいいことだった。 自分を納得させるための言い訳だということくらい、分かっていた。 「寝てそのままあの世行ってましたーなんて虚しいご臨終嫌だから、寝ない」 そんなありきたりな死に方、きっと私には似合わない。 願望ではあるけれど。 それでもベッドに腰掛けて、窓枠に切り取られた闇色の空を眺める。 久しぶりに見た空は、とても…綺麗だ。 背を向けてしまった龍に、あちゃー、と軽々しく反省する気持ちが心の隅っこに巣喰う。 「…死神に、なる気はないか」 …何を言い出すかと思えば。 「死神になれば、俺みたいにそのまま生きられ」 「魅力的だけど、断る」 言葉を遮るようにして、ぴしゃりと言い放つ。 是非とも飛びつきたい提案だった。 龍の側にいられるかもしれない、と思えば心は勝手に浮き立った。 なのに、そんな幻影の蜘蛛の糸すらも切り刻むように…硝子破片の雨のような現実は次々と降り注ぐ。 お互いにもうぼろぼろに傷ついている気がした。 「無理して…生きたいとは、思わない」 ううん、本当はどんな手段使ってでも生きたい。 でも…死神になった龍の顔は、全然幸せそうじゃない。 凄く…悲しそうだ。 でも、そんな顔してるってこと、気づいてないのに。 …言える、わけない。 「…ありがと。あんたなりの気遣いでしょ。分かってる…」 カチャン、と床にペンが落ちた音に言葉がぶつりと断ち切れた。 がくん、と肘が折れる。 視界が真っ白になって…気づいたら床にずり落ちていた。 何事か叫んで手を伸ばしてくる龍を左手で思い切り払いのける。 「気安く触んなビンボークジ!」 ごめん。 こんな事しか言えなくて。 「…大丈夫、朝までは死なない」 朝焼けに染まり儚くなる、葉先の露と同じように。 酷い言葉を投げつけて、感傷に浸る浅ましい自分。 今の今まで、目を逸らしていた。 いつもと変わらぬ明日が、今度こそ来ないこと。 全てが夢現の狭間を漂っている気がした。 リン、と涼やかな音をさせて流れ星が一つ。 「流れ星が流れる間に三回願い事言えたら、叶うと思う?」 一つ。 二つ。 三つ。 「迷信ってやつ?」 「うわ、夢ぶち壊さないでよ」
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