流星群

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ふらっとパジャマのまま外に出た。 身体を洗うのでなければ、着替えるのもおっくうで。 通院で行き交う人々の気配が、脇を通り抜けていく。 きいきいと、鳥が頭上で濁く鳴いた。 「こらー飛鳥!外に出ちゃ駄目って言われてるでしょー!」 手を後ろに引かれ、危うく尻餅をつきそうになった。 「もしかして早苗?」 「もしかしなくても早苗だよ!何で薬で身体弱ってるのに寒風吹きすさぶ中ふらふらしてんの!病室戻れ!」 「親と同じこと言わないでよもう…病室は気が滅入るって言ってるでしょ」 全く、何でこんなに早苗はお節介なんだろう。 また言いくるめられそうで、慌てて口を開く。 「べ、別に病室は嫌いじゃないよ。空調完璧だし、何くれと世話はしてもらえるし」 「だけど何が嫌かって、食事の減塩味噌汁!それから生寿司が出ない!でしょ」 先に言いたいことを言われて、そういえば過去に数回既に全く同じ会話があったことを今更ながらに思い出す。 何でも早苗は、向かいの病室に入院しているらしい。 らしい、というのも私が早苗の病室に入ったことがないから不確かであるというだけだ。 個室で暇な私の部屋にひょいひょい遊びにくる。 ロビーに行けと看護士さん達に再三注意されているにも関わらず、早苗はそんなことはまるでお構いなしだ。 「そういえば早苗、年末は家に帰れるんだって?」 「発作がそれなりになったらねー。どーせ、すぐ帰って来るよ」 いやに早苗の手が熱い気がして、全身の気怠さに溜息が出る。 心なしか、足先も寒い。 昨日ようやく引いた熱が、ぶり返してきたかもしれない。 「飛鳥、いつもよりは調子いいんだ?」 「何で?」 一体何を根拠に調子が良さそうに見えるのか。 「だって、怒らないから」 「はあ?」 「大概怒って、『怠いから寝る!出てけ!』って言うからさ」 …残念ながら、熱と全身の倦怠感と鈍痛に精一杯で、とんと覚えがない。 そんなにつっけんどんに追い返してたっけ、と当て所もなく記憶を辿る。 「そーだ、移植手術するんだって?」 「ああ、それなら中止になったよ」 「え?ドナー待ちじゃ…」 早苗の情報収集力には舌を巻く。 一体何で私の病気過程から治療予定から知っているんだろう。 個人情報保護法が有意義に使われていない気がする。
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