流星群

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「死神の仕事は、人を殺すことじゃないの?」 「痛いところ突いてくるね。そういう仕事もないわけじゃないけど、今日は違う」 全く同じことを訊いてきたあいつの顔が鮮やかに思い出せる。 「飛鳥サンの命日予定日予定日に歪みがでたから、伝えに来た」 「命日予定日って…そんなの、分かるわけな」 「人間には、な。死神なら分かる。」 「言わなくていいよ、そんなこと。聞きたくない」 察しのいいことだ。 余命宣告とは違う、死神のみぞ知る命日予定日は変わらない。 そして、よほどのことでなければそれを人間達に教えることもない。 それが、死神の掟。 その条理を曲げるには、莫大な代償が必要になる。 敢えて踏み越える者は殆どいない。 『あいつ』でさえ…諦めた。 「三日後だとしても?」 情け容赦なく切り込む。 聞く気のない人間に届く言葉は、限られてしまうから。 女が何か呟いた気がした。 だが、それは俺に届く前に闇に溶けていく。 「飛鳥サンの寿命は三日後…十一月十七日の夜明けまで」 残酷な真実を、突きつける。 女の表情は強張り…暗闇の中でさえ蒼白に見えるほど、血の気が失せていた。 これが、人間の脆さ。 死神に持ち得ぬ、儚さ。 限られた時間を生きる者達は、ただただ宿命に怯える。 「…飛鳥サンの身体、酷使しすぎたんだな。本当なら、もう少し時間があったんだ」 「…帰って!」 見えていないはずの目と、視線がかち合った気がした。 それは死を恐れているだけの、顔ではなかった。 滲む憤り。 やり場のない虚しさ。 女の感情全てを込めたように震えている、小さな拳。 「その分の穴埋めが、俺達の仕事だ。死ぬ前までに、願い事一つだけ叶えてやれって言われたから…来たわけ」 「帰れっ!」 振り翳された白杖を叩き落として、嘆息する。 腰元の砂時計をそっと、手に取った。 …良かった、そろそろ時間だ。 「また明日来る」 「っ来るな!」 何故だか、耳に残る声。 「信じる信じないは飛鳥サンの勝手だ。だけど、考えておいて。叶えて、あげられるから」 「ここはっ…死神が不幸ばらまきに来る場所じゃない!」 …俺達は人間にとって。 この程度の存在。 「そうかも、しれない」 夜闇に紛れようとして、今更それは無意味だと気づく。 だから、さっさと戻るために砂時計をひっくり返した。 『死にたくないよ―――――――――――』 夜陰を切り裂く叫びが、聞こえた気がした。
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