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同朋の気配が部屋の隅に降り立った。
珍しく砂時計を使ったのか、人界の風が吹き込む。
「なーに見てんだ、龍」
肩越しに覗き込まれ、隠すのが一瞬遅れた。
「…どこで手に入れた、そんな趣味の悪いもの」
…バレバレだ。
本当に嫌になる。
「お前の兄さんから。三途の川の水鏡…人間界が見えるっていうから一枚もらった」
言い訳を考えるだけの気力も失せて、本音混じりの言葉をだらだらとこぼす。
ぼす、という音と共に急に視界が暗くなった。
冷えきった空気を纏う黒色のものを剥がすと、それは死神の着ていた外套だった。
パシリ君と化しつつある俺は黙ってそれをハンガーにかけ、いつもの場所に吊す。
「飛鳥サン、お前の幼馴染み?恋人じゃなさそうだし」
「どこで聞いた」
つっけんどんに言い返してから、しまった…と思った。
こいつの喜ぶ『肯定の返事』をしてしまった。
「さあ?」
かっちーん、と頭にきた。
「いちいちムカつくんだよ、お前の返事は」
今日という今日に限って、陳腐極まりない台詞しか出てこない。
自分の馬鹿さ加減をこれほど呪ったのは生まれてからも死んでからも初めてだ。
「お前の仕事やってるんだから、文句の一つや二つ言われて当然だ」
当然だから、言い返したくなるんだって!
そんな短絡的な思考はこの死神にはだだ漏れだ。
絶対今自分の顔にもありありと書いてあるはずだ。
自分がこの死神ほど頭が良くないのは重々承知しているが、だからといって…馬鹿をわざわざ露呈するように誘導しないでくれ、と思う。
そんなことを言おうものなら、また散々馬鹿にして手玉に取られて遊ばれるのが目に見えている。
「…願い事は、聞いたのか」
「まさか。三日後に死にますって言われてハイそーですかなんて納得できる奴がいたらお目にかかりたいね」
確かにそうだとは思ったが、微かな苛立ちが喉奥でわだかまる。
「本っ当女々しい奴だなー。そんなことしてるんだったら自分でやれよ。元々お前の仕事だろ」
こいつが言っていることは正しい。
正しいだけに、俺のひねくれた性格には癇に障る。
「情が入ったら、仕事が出来ない」
「まーた始まった、言い訳大魔王。何だよ、そんなにショックだったのか?」
俺の感情を描くように、水鏡が波紋を広げた。
「よくある事だろ。何も珍しい事じゃない。現にお前も車につっぱねられ」
「軽々しく言うな!」
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