流星群

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命日予定日は、肉体の限界を示すもの。 故に、事故、災害などは死神でも予測がつかない。 だから突然、仕事が山のように振ってくることもある。 神という字を持つ俺達でさえ、生命の全てを司ることは叶わない。 「俺は元は人間だ。人が死ぬのを好んで見たいとは思わない!」 語調が荒くなるのを宥めるでもなく、逆に煽るように微笑をたたえている死神。 最悪だ。 完全に死神ペースに乗せられてしまっている。 「最期の日くらい、行ってやれよ。飛鳥サンが可哀相だろ」 可哀相? 死神の表情はいつもいつも曖昧で、俺ごときに推し量ることなど出来はしない。 けれど、死神の口から『可哀相』なんて言葉が出てくるとは思わなかった。 俺から見ると、生粋の死神達は人間の心の機微など解しているようには思えない。 無言のままの俺に痺れを切らしたのか、更に死神は言い募る。 「冷たくしないで看取ってやれよ。飛鳥サンの両親が都合良くその日に来るわけないだろ。一人じゃあんまりだ」 あんまり…か。 「…考えて、おく」 笑うことこそしないものの、死神は満足そうな表情をした。 そのまま溜息が出るくらい優雅な所作で踵を返し、隣りの部屋へ行ってしまう。 気配が遠ざかるのと比例するように、肩の力が抜けていく。 大分力が入っていたらしい。 「可哀相…か」 やっぱり俺は人間なのだ。 死神は、可哀相という単純な感情は分かるのに、悲しいということについてはまるで理解を示さない。 それは、神独特の傲慢さと絶対の自信。 つくづく、死神は不思議な生き物だと思う。 生き物、という表現も当てはまるかどうか疑わしいところではあるが。 「あれから、七年…」 無音の断末魔だけを遺して、俺の身体はバラバラになった。 全く不可抗力の死だった。 感じるような痛みは、無かった。 本当に…瞬殺というか即死というか、拍子抜けするほどあっけなく俺の人間としての人生は、幕引きとなった。 風に吹き飛ばされてきたビニール袋が、自分の爆ぜた屍の手首の辺りに引っ掛かって、血溜まりの上にくしゃりと萎びて縮んでいた。 自分の屍を見て…『ああ、死んだんだな』。 思ったのは、ただこれだけ。 悲しみもなければ憤りもなく、動揺もなければ恨みも感じはしなかった。 あの時の俺は、精神状態がかなりおかしかったと思うしかない。 そして、自分の屍の傍らで蹲ったまま。 触れること叶わない自分を、見つめていた。
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