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悠姫はアメリカで生まれ、五歳までそこで育った。 その頃悠姫の家庭は円満で、週末には両親の友人たちが催すホームパーティーに、親子三人そろってよく出かけた。 両親は他のどのカップルよりも仲睦まじく、愛し合っているように見えた。 悠姫の自慢の両親だった。 どんな集まりに行っても、日本人は悠姫の母だけだった。 悠姫の母は日本人としては決して小柄な体型ではなかったものの、アメリカ人女性たちの輪に入ると華奢で、同じ年代の誰より若く見えた。 悠姫の母はストレートの長い黒髪をしていて、誰もが美しいと褒めた。 そして日本人のきめ細やかな肌を、女性陣は羨ましがった。 母はうまくやっていた。 日本人特有の謙遜の美徳だとか奥ゆかしさなどは、元来持ち合わせていないひとだったから、誰の前に出ても堂々としていて、自己主張をはっきり示した。 悠姫にとっても悠姫の父にとっても、自慢の母であり妻であった。
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