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ある時、まだ三つか四つの男の子に、 「悠姫のママの目と髪はどうしてあんなに黒いの?」 と不思議がられたことがあった。 悠姫にとっては、生まれた時から母は日本人、父はアメリカ人、家では日本語も英語も入り乱れているというのが当たり前のことだったから、その幼く唐突な質問に戸惑った。 母は日本人で、ここは母の国ではないのだと、ここのひとたちにとって母は外国人なのだと、ぼんやりとだが悠姫が理解しはじめたきっかけだった。 その頃、悠姫は日本人の血をひきながら、まだ日本へ行ったことがなかった。 母方の親戚には誰にも会ったことも、声を聞いたことさえなかった。 写真を見せてもらったことも。 それが実は、両親の結婚に母の両親が反対だったことや、母が元々親戚たちと折り合いが悪かったせいだと悠姫が知ったのは、ずいぶん後になってからである。 悠姫が五歳のある秋の日に、悠姫ははじめて日本へ行くことになった。 父の転勤だった。 数年とはいえ自分の生まれ育った国へ帰れることになったというのに、母はちっとも嬉しそうじゃなかった。 どうでもよさそうな淡々とした態度で、喜々として引越し作業をしていたのは父のほうだった。 父にとってもはじめての日本だった。
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