14人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後、学校を出た悠姫たち三人は、自宅の方向とは少し外れた大通りを歩いていた。
点々と植えられた街路樹を見上げては、悠姫はおっとり微笑んでいる。
「ご機嫌だな悠姫」
悠姫の左側を歩いていた蒼馬が言った。
悠姫は表情豊かで、ちょっとでも嬉しいことがあると、すぐに笑顔になる。
「だって梅雨の晴れ間って大好き。昨日まで雨が降ってたから葉っぱもつやつやしてて気持ちよさそう」
「ほんと、今日はいい天気だよなあ」
青く冴えた空を仰ぎながら言ったのは、右側を行く静馬だ。
三人は今日の夕食の食材の買い出しに行くところだった。
ふだんはいったん家に帰って鞄を置き、制服を着替えてから買い物に出るのだが、最近の天候を考えるといつまた降り出すかわからない。
悠姫ももう十年日本に住んでいるから、たまにからっと晴れ間がのぞいても梅雨は侮れないことを十分知っている。
悠姫は雨は好きだが、梅雨独特のじめじめ感は苦手だった。
梅雨は紫陽花やカタツムリのひとときの天国なのだと考え、おおらかに受け入れてはいるものの、こんなふうに晴れ渡った青空はやはり嬉しい。
双子たちは昔から梅雨が大嫌いだった。
一年を通して、雨の日が嫌いなのだ。
しかし悠姫が雨の日に傘をさして歩くのが好きだと知っているから、悠姫の前ではおくびにも出さない。
まだ小さかった頃、雨が降ると、悠姫がお気に入りの傘と長靴で、通りにできた水溜まりにわざと入ってはしゃいでいたのを、双子は同時に思い出す。
それと共に、悠姫とはじめて会った日のことが蘇り、ふたりして口許に手をやり笑いを隠した。
最初のコメントを投稿しよう!