人魚姫02

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"おばあちゃん…お願いがあるの" もっと近くに行けるように、足が、欲しい…。 小さい頃から聞いていた、おばあちゃんの話。 おばあちゃんは私にとても優しくて何でもしてくれた。 色んな話をしてくれた。 "人間もね、良い人もいるんだよ" "でもお母さん達は悪魔だーって言ってるよ?" "人魚の中にも悪い人はいるでしょ?" "うーん…" "だからね、人間も人魚も一緒なんだよ" 内緒だよ、と聞かせてくれた話。 おばあちゃんは昔、地上で人間と会った事があった。 その人間を、好きになってしまったと、 恋に…落ちたんだと私だけに話してくれた。 おばあちゃんは博識で、色んな事を知っていた。 沢山の奇怪な現象や普段目にする事のないもの、幻に近いようなものまで色んな事を調べて。 色んなもの造り出しては人の役に立っている。 そんなおばあちゃん。 人間に恋をして、どうしても近付きたかった彼女は薬を作ったのだと。 そうして、地上に、二本の足で立ったのだと。 "足が…欲しいの、どうしても明日地上に上がりたいの…!" "ユイ…?" "ねぇ、おばあちゃん、おばあちゃんは"人間は悪い人ばかりじゃない"って言ってたよね? 私、どうしても会いたいの…会って、一緒に話がしたい" "人間に会ったの…?" "ごめんなさい…" 人魚の世界にも決まり事や掟はある。 地上に行くことや人間と接触するなんて事は重い罪だ。 場合によっては一生牢獄に閉じ込められる。 自分達の命が危うくなるような可能性がある芽は早めに摘んでしまわなければならない。 人間に唆されてこの世界が危険に晒されるかも知れないんだ。それ程、皆人間を警戒している。 だからこれは…とても危険な、賭けだった。 "私は…自分の直感を信じたい…あの子は危険な子なんかじゃない" "ユイ…" "もう一度…会いたいよ…" こんな、会ったばかりの人間に、 一言二言しか言葉を交わさなかった人間に。 どうしてこんなにも会いたいんだろうか。 好奇心。興味。憧れ。疑問。探求するキモチ。 それも勿論あった…。 けれど、私はもう一度ちゃんと話がしてみたかったんだ。 素直に、あの"瀧島 魁斗"という人間の男の子が気になっていた。 "こっちに来なさい" そう言って静かに泳ぎだしたおばあちゃん。
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