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人魚姫 3
ゴポリと音を立てて泡が水中に浮いていく。
コポコポと静かに揺れて上へ上へと上がっていく細かな空気。
人間は、水の中では生きられない。
呼吸が出来ないから死んでしまう。
酸素が存在しないと窒息して死んでしまう。
だから、だから私が行くしかないんだ。
私が彼に会いに行くしかないんだ。
「おばあちゃん…私、会いたい…」
危険だと言われても、会いたかった。
三度目は無いと言われていても二度目はある。
だから、もう一度会えるなら私はその可能性に縋りたかった。
彼にもう一度会えたらいい。
その後の事はその時に考えたら良い。
そんな、子供みたいな事しか考えられなかった。
後先を考えている余裕なんてなかった。
だって彼は明日帰ってしまう。
もう会えない。
もう…あの笑顔を近くで見る事も出来なくなってしまう。
そんなの嫌だ。
ゴクリと、意を決してその薬を飲む。
前にも味わった感覚。
身体か焼けるように、きしんで歪むような感覚。
痛くて、熱くて…でもそんな感覚も全て貴男へと繋がるのなら、
私は喜んで受け入れよう。
こんな気持ち生まれて初めて味わったの。
苦しくて、嬉しくて、でも悲しくて…。
それでも、
愛おしい。
「はぁ…っ、大丈夫…いける…」
身体を刺すような痛みに顔を歪ませながら私は彼の元へと向かった。
会いたい。
彼も私に"会いたい"と言ってくれた。
それが嬉しくて、嬉しくて。
だからこんな事、何でもないの。
貴男に会えるならこの痛みだって快楽の一部に変わる。
「魁斗君…」
「…ってお前、顔色めちゃくちゃ悪い!」
昨日と同じ場所に行くと既に魁斗君が座ってて。
私の方を振り向いた瞬間に眉を顰めて口を開く。
あやや、そんなに顔色悪いのかなぁ…確かに身体が重いからなぁ。
それでも私の心は昨日と同様にわくわくしていた。
だって近くに彼がいる。
たったそれだけの事がこれ以上なく嬉しかった。
「大丈夫だよ、そのうち良くなる」
「でも…」
「時間が勿体無いよ!早く遊ぼう?」
にっこり笑って彼に近付く。
そうだ、今日で魁斗君は帰っちゃう。
夕方にはもうお別れなんだ。
だから早く、時間の許す限りは一緒に居たい。
ぎゅっと腕を勢い良くとらわれてずるずると引きずられていく。
一瞬の事で訳が分からず私はされるがままになっていた。
ぼうっとしつつ彼の顔を窺ってみる。
…もしかして、怒ってる?
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