人魚姫03

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胸がズキッとした。 どうして怒らせてしまったんだろう。 どうしよう、こんな私、うざったかった? 面倒になってしまった…?だからあんなに怖い顔してるの? 「魁斗君…どこ、行くの?」 「俺の別荘」 「え!?」 思わず足を止める。 魁斗君がその怖い顔のままでこっちに振り返って私を見つめる。 魁斗君の別荘って事は…他の人間もいるんでしょ? そんな中に行くなんて私…。 無意識に、身体が震えだしていた。 魁斗君は平気。 でも他の人間は分からない。 やっぱり私は騙されていて、魁斗君は私の事人魚だって気付いてて捕まえるつもりなの? 「やだ…行きたくない…」 「黙ってついて来いよ」 「別に別荘じゃなくても良いじゃない、もっと他の場所で…」 「ユイ」 遮られるように、強く言い放たれた。 それが何故だか怖くて、 やっぱり私は選択を間違えた? 「別に怖がらなくて良い」 「え…?」 「お前調子悪いんだろ?こんな炎天下の下でいつまでもいたら倒れるぞ」 「……」 「何だよ…」 もしかして彼は私の体調を心配してくれていた…? じっと魁斗君を見つめると恥ずかしそうに顔を逸らす。 その仕草がとても子供らしくて、可愛くて、思わず笑ってしまった。 そうだ、彼はそんな人間じゃない。 口は悪いけどとても優しくて、人を騙すような人なんかじゃない。 一瞬でも彼を疑ってしまった自分に嫌気が差す。 人間を怖がって、自分達の命を守る為に隠れて生きていく人魚…。 そんな私達だからこそ、憶測で物事を決め付けやすい。 疑ってしまう。 ばかだな私…そんな事してる大人達が一番嫌いだったのに。 所詮、私も同じじゃないか…。 「ごめんね…」 「はぁ?どこに謝る必要があるんだ?」 「うーん、何となく…かな」 「やっぱお前って変な奴」 そう言って、笑う。 太陽みたいな笑顔で、笑ってくれる。 私達の住む深海には太陽の光は届かない。 だからずっと憧れていた。 光り輝く太陽の光。 あたたかい、その日差し。 貴男のその存在自体が私の憧れだったの。
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