人魚姫03

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綺麗で…綺麗で思わず見惚れてしまう程だった。 ちゅっと、おでこにも唇が降ってくる。 「笑ってる顔は、嫌いじゃない」 「何それ…」 「だから、笑えよ」 いつかのように、自分勝手な発言。 でもそれさえも嬉しい。 彼の私に向かって放たれる言葉のひとつひとつが染み込んでくる。 身体の中に広がって、言いようもない気持ちにさせる。 「…待ってるから、また絶対来てね…」 笑顔で、そう言った。 再び降ってきた唇は、頬でも額でもない場所に触れた。 魁斗君の乗った車が動き出す。 泣きたいけど泣かないよ。 だって魁斗君が私の笑った顔は嫌いじゃないって言ってくれたから。 彼のその言い方は、 好きだって、ことだから。 「俺の事、忘れるなよ!」 「魁斗君も忘れちゃ嫌だよ!」 「俺の記憶力なめるんじゃねぇ!」 「待ってるから…」 「あぁ?何て言った?」 車の音にかき消される言葉。 涙が今にも零れ落ちそうだった。 それでも、 笑って、 笑顔で。 「魁斗君!また絶対会おうね…!!」 だんだん小さくなっていく彼の姿。 それでも笑った顔ははっきりと見えた。 手を高く挙げて力いっぱい振っていた。 私もそれに応えるように必死に手を振る、涙を堪えて。 見えなくなるまで、見えなくなっても、私はその場で立ち尽くした。 待ってるよ…。 例え三度目が無かったとしても待ってるから。 絶対来て。また一緒に話がしたい、一緒にいたい。 それまで我慢していた涙が一気に零れ落ちる。 苦しい。苦しいこんな気持ち…。 今すぐにでも追いかけて行きたい。 同じ場所に行きたい。 それも叶わない…。 私は人魚で、彼は人間。 これ以上歩み寄ることは絶対に出来ない。 それでも私は待ち続けた。 何年も、何年も同じ気持ちで待ち続けた。 貴男に会いたい 声が聞きたい その姿をこの目に焼き付けたい それさえも、神様は叶えてくれないのかな…。
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