人魚姫04

2/5
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
人魚姫 4 「…いかん、弱気になってきた…」 人の海に呑まれながら過去の記憶に浸っていた。 魁斗君に初めて会ったのは、もう何年前になるだろう。 何年も、何年も、同じ時期になると浅瀬の方に向かって、ただひたすら待っていた。 たった一人の人間を、待っていた。 あの頃の楽しかった思い出を胸に、ひたすら日が暮れても、 朝が訪れても、待っていた…。でも、いつまで待っても魁斗君は現れなかった。 "俺の事、忘れるなよ!" 忘れない。 忘れるはずがない…。 人間の、気まぐれで言った言葉だったかもしれない。 それでも私は信じたかった。 魁斗君のあの言葉を信じたかった。 また来るからと、今にも泣き出しそうな顔で。 ぎゅっと、涙を堪えて、それでも泣かずに私と約束してくれた。 そんな貴男を信じたかった。 「私ってばかなのかな…」 何年たっても来ない彼を、今でも信じている。 何か理由があったはずだ、もしかして彼に何かあったのだろうか。 不安ばかりが募っていた。 もう待つだけは飽きた。 だから私が、私が彼を捜すの。 「この辺りにいるっていうのは確かなんだけどなぁ…」 「何々お姉さん、道にでも迷ったの?」 「……」 いかにも軽そうに声をかけてきた男。 あー…どうしよう、殴っても良いですか? だってこの男は普通の人間じゃないんだもん。 「いい加減にしてくれない?」 「ははーん?だってこれが俺の仕事だから仕方ないじゃん?」 「…そんなの私は知りません」 そう、この男は"ナビゲーター"。 人間が言う"空想上の生き物"達の案内人。 例えば私のような人魚だったり天使だったり妖精だったり…。 私達が人間の世界にいるのは危険すぎるから、彼達ナビゲーターが存在する。 迷える私達を目的の場所まで案内する仕事。 「だから俺に言ってくれれば一発でその人間の所に案内すんのに」 「だーかーらー!私はこの事に関しては誰の手も借りない!」 「強情な人魚さんだなぁ」 「ほっといて。自分の力で捜さなきゃ、意味がない」 自力で捜し出してみせる。 彼と一緒にいられたのはおばあちゃんの力を借りたから。 私の力では何も出来なかった。だから今度は…今度こそ自分の力で彼と会ってみせたい。 もう一度、あの太陽みたいな笑顔で笑いかけて欲しい…。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!