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人魚姫 4
「…いかん、弱気になってきた…」
人の海に呑まれながら過去の記憶に浸っていた。
魁斗君に初めて会ったのは、もう何年前になるだろう。
何年も、何年も、同じ時期になると浅瀬の方に向かって、ただひたすら待っていた。
たった一人の人間を、待っていた。
あの頃の楽しかった思い出を胸に、ひたすら日が暮れても、
朝が訪れても、待っていた…。でも、いつまで待っても魁斗君は現れなかった。
"俺の事、忘れるなよ!"
忘れない。
忘れるはずがない…。
人間の、気まぐれで言った言葉だったかもしれない。
それでも私は信じたかった。
魁斗君のあの言葉を信じたかった。
また来るからと、今にも泣き出しそうな顔で。
ぎゅっと、涙を堪えて、それでも泣かずに私と約束してくれた。
そんな貴男を信じたかった。
「私ってばかなのかな…」
何年たっても来ない彼を、今でも信じている。
何か理由があったはずだ、もしかして彼に何かあったのだろうか。
不安ばかりが募っていた。
もう待つだけは飽きた。
だから私が、私が彼を捜すの。
「この辺りにいるっていうのは確かなんだけどなぁ…」
「何々お姉さん、道にでも迷ったの?」
「……」
いかにも軽そうに声をかけてきた男。
あー…どうしよう、殴っても良いですか?
だってこの男は普通の人間じゃないんだもん。
「いい加減にしてくれない?」
「ははーん?だってこれが俺の仕事だから仕方ないじゃん?」
「…そんなの私は知りません」
そう、この男は"ナビゲーター"。
人間が言う"空想上の生き物"達の案内人。
例えば私のような人魚だったり天使だったり妖精だったり…。
私達が人間の世界にいるのは危険すぎるから、彼達ナビゲーターが存在する。
迷える私達を目的の場所まで案内する仕事。
「だから俺に言ってくれれば一発でその人間の所に案内すんのに」
「だーかーらー!私はこの事に関しては誰の手も借りない!」
「強情な人魚さんだなぁ」
「ほっといて。自分の力で捜さなきゃ、意味がない」
自力で捜し出してみせる。
彼と一緒にいられたのはおばあちゃんの力を借りたから。
私の力では何も出来なかった。だから今度は…今度こそ自分の力で彼と会ってみせたい。
もう一度、あの太陽みたいな笑顔で笑いかけて欲しい…。
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