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人魚姫
見渡す限りの蒼の世界。
薄暗い深海に存在する私の故郷。
地上の人達が言う"人魚"と言う空想上の生き物。
そもそも何故空想上の生き物なのか。
インド洋や南西太平洋の沿岸の浅瀬に生息するジュゴンを"人魚"だと誤認した説は有名だ。
上半身が人の形をしていて下半身が魚の形をしている生き物などいるはずがないと…。
でも私達は確かに存在していた。
深海の奥深くに、ひっそりと。
地上の人間達に見つからないように隠れるように過ごしてきた。
ただ種族が違うだけで同じ生き物なのに。
どうして私達は表に出てはいけないのだろうか。
子供の頃、ずっと疑問に思っていた。
「絶対に浅瀬には行ってはいけない」
それが親や大人達から言われ続けた台詞。
どうして?
どうして浅瀬に行ってはいけないの?
悪い人間しかいないの?良い人なんて一人もいないの…?
確かに人間達の話は聞いていた。
"人魚の肉"
それは地上の人間達にとって貴重で異端な物だった。
江戸時代には人魚の骨が薬とされ。
人魚の血肉を食べると不老不死になると信じられていた…。
だから私達は隠れるように過ごさなければならなかった。
根絶やしにされかねなかったから。それでも、子供の頃はそんな事理解なんて出来なかった。
好奇心の方がいくらか勝っていた。
「ユイちゃん!駄目だよ!」
「ちょっと浅瀬にいくだけだよ?平気平気」
「だって浅瀬には人間がいるんだよ!?」
「だから行くんだよv」
引き止めようとする彌梛(ミナ)ちゃんを振り払って上へ上へと泳ぎだした。
悪いけど私、泳ぎには自信あるよ?
仲間内の中では私が1番早くて誰も私を捕まえる事が出来ない。
だからね、だから行かせて。
見てみたいの。
地上には何があるのか。
この蒼の世界には存在しない沢山の珍しいものをこの目で見てみたいの。
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