人魚姫04

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空は雲に覆われていて太陽は見えない。 汚れた空気。 緑も人工のものばかり。 当然、綺麗な水なんてものも存在しない。 無理なのかな。 こんな沢山の人間が存在する中のたった一人の人間を見つけ出すなんて事無謀なのかな。 もうあれから8年は経っている。 昔のままの魁斗君じゃないし、姿だって多少は変わってるはずなんだ。 例え会えたとしても、 9歳の、子供だった彼と3度だけしか会った事のない私はすぐに分かるだろうか。 彼は…私を忘れていないだろうか。 不安が、胸を引き裂く。 「私が…人間だったら良かったのに…」 そんな無謀な願い。 今更どうしようもないって事くらい分かってる。 分かってるの…。 でも願わずにはいられなかった。 もし私が人間だったら魁斗君の後を追っていけたかも知れないのに。 同じ学校に通って、毎日遊んで。 色んな彼を、間近で見る事も出来たんじゃないかなって…。 「君が人魚だからこそ、存在したものもあるんじゃないの?」 「え…?」 雲に陰った太陽が、姿を現した。 一筋の、細い光となって一点を照らす。 この汚れた地上に、綺麗な光が注がれる。 人ゴミの中、一点に注がれる光の中で、一人の人間が目に映った。 ドクリと心臓が脈を打ち私はその場で立ち止まった。 光の反射でキラキラと眩しい程の金に近い髪色。 左目の下にある、泣きぼくろ。 海より深い、あの蒼い瞳……。 忘れない。 忘れるはずがない…。 夢にまで見た貴男の姿を私が間違える訳がない。 だんだんと縮まっていく貴男との距離。 一歩、二歩、三歩と歩み寄る貴男の姿。 伏せていた瞳が自然と上へと持ち上がってくる。 その、綺麗な蒼い瞳が私と重なる瞬間が来る――――…。 「魁斗…君?」 彼の瞳が大きく見開く。 心臓がばかみたいに早くなってその鼓動が邪魔な位に煩かった。 止めて、この鼓動を止めて。 死んでも良いから…だから彼を静かに見つめさせて。 ずっと夢見てたの。 魁斗君ともう一度会えたらって…ずっと夢見てたの。 そんな貴男が、今私の目の前にいる。 「魁斗君!あのね…」 とにかく、何かを喋らなきゃいけないって思って…。
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