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人魚姫 6
気付かないうちに涙が次から次へと零れ落ちていく。
目が熱い。頭が痛い。心が、痛い。
想像もしなかった。
あんな風にあしらわれるなんて夢にも思っていなかった。
記憶しているものもあれば、忘れていくものもあるのは当然の事なのに、
疑いもしなかった。
あの頃の魁斗君が私の全てだった。
私の中の魁斗君は9歳のままでちっとも成長していなかった。夢を見続け、現実を知った時の衝撃は半端なものではなかった…。
「忘れないって言ったのに…」
「人間は、俺達とは違う」
「でも魁斗君は、私に言ってくれた…っ」
目を閉じれば蘇る眩しくて幸せだった思い出。
あの頃貴男と会えたから今の私があるの。
きっとあの時出会わなければ私は皆と同じような生き方をしていた。
人間を恐れ、暗闇に隠れて静かに一生を終わらそうとしていた。
ここまで私を突き動かしてくれたのは、貴男と出会えたから…。
「このままで終わらせたくない…」
「もう一度やり直せば良いんじゃない?」
「え…?」
「もう一度、初めからやり直せば良い。
もう一度彼と出会い、思い出を新たに作っていけば良い」
魁斗君との思い出をもう一度。
でも…、
あの頃魁斗君はもういない。
私と過ごした魁斗君は、もう何処にもいない…。
「君は子供の頃の記憶に拘るの?
彼があんな風に成長したらもう幻滅して終わり?その程度の気持ちだったんだ」
「違う!魁斗君は魁斗君だよ…」
「それが分かってるなら次にやる事はもう決まってるはずじゃないの?」
私を試すかのように、挑むような視線を向けられる。
ぐっと手を握った。
そうだ、忘れられたらまた作っていけばいい。
新しい思い出を。
こんな事で諦められる程度の気持ちだったら、最初から此処に来ていない。
覚悟を決めたんだ。
自分の身なんてどうでもいい…。
また会いたかったの、"ありがとう"を言いたかったの…。
貴男と出会えた事が、貴男と過ごした日々こそが私の一番の宝物。
「お願い…力を、貸して?」
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