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「やっと俺を頼ってくれるんだ」
ナビゲーター。
彼らの力は本物だ。人間界で言う"魔法使い"に似ている。
でも、魔法使いだって全能じゃない。
出来る事は限られているんだ。
その中で、最大限の事をしたい…。
もう一度、私に笑いかけてよ。
もう一度、昔のように傍にいてよ…。
立ち上がろうと、腕に力を入れた時、いきなり誰かにその腕を掴まれ持ち上げられた。
驚きよろけた身体を抱きとめられる。
広い胸に顔を押し付けるような体勢になって慌てて距離をとった。
恐る恐る顔を上げると、綺麗な男の子が目の前に立っていた。
「大丈夫か?」
「はい、ごめんなさい…」
「…何か悲しい事でもあったん?」
「え?」
「涙。」
長い指が私の涙を拭う。
綺麗に、何処か人なつっこいような笑顔でにっと口の端をつり上げて笑い、私の頭を撫でた。
ぽん、ぽん、と子供をあやすみたいに。
彼の纏うあたたかいオーラのようなものを直に感じ、
涙が出てきそうになった。
「大丈夫です…ちょっと落ち込んだけど、立ち直ったから」
「可愛い子は笑った方がええで?」
「あはは…そうだね、笑っていたい」
苦笑いして距離をとる。
この人もきっと良い人間なんだろうな。
なんとなく雰囲気で分かる。周りから好かれるタイプなんだろう。
私が人間だったら友達になりたいタイプかもしれない。
残酷な人間しかいないと聞かされ続けてきた私にとって
彼のような人は本当に貴重に思えて。
私が…人間だったら…。
「あのな、違ってたらごめんやねんけど…自分"瀧島 魁斗"って知ってる…?」
「え…?」
名前を聞くだけで私の心拍数は跳ね上がった。
「いや、俺の思い違いかもしれへんし…」
この人は魁斗君を知ってるの…?
どうして私が魁斗君の事を知っているのかと思ったんだろうか。
何か接点でもあるのだろうか…。
「どうして…?」
「俺の口からは言われへんけど…なんとなく、そうなんちゃうかなぁって」
「何それ」
「さぁ、俺もよく分からへん」
そう言って、静かに笑う。
私に、何を感じ取ったというんだろうか。
魁斗君は私の事をカケラも覚えていなかった。
なのに彼は魁斗君と私の繋がりを指摘してきた。
どうして…?
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