人魚姫

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少し位なら近付いても大丈夫だよね? 好奇心が、勝った。 浅瀬の下には岩がゴロゴロあるから視角になってしっかりとは見えないだろう。 私の下半身は…。 パシャリと泳いで少しずつ近付いていった。 だんだんはっきりしてくるその顔。 口調からして男の子だろう。 同い年位…?人間の、初めて会う子供。 「…はいどーぞ」 「遅ぇよ」 「…持ってきてあげたのにその態度は無いんじゃない?」 「知るかよ」 ………。 人間の男の子というのはこんなにも失礼な奴なんですか? 今まで思い描いていた人間像が崩れ去ってしまった…。 じゃあやっぱりお母さん達の言う通りにこの子も危険なんだろうか。 此処から一刻も早く逃げた方が良いのだろうか。 「何で上がって来ないんだ?」 「え!?いや…(上がりたくても上がれない…)海ノ中ガ好キナンデス」 「…嘘臭ぇ」 馬鹿にされたような目でじろりと見下された。 何ですかこの子は!! …でも、不思議とその場から早く逃げようとか、そんな気は起こらなかった。 心の何処かでわくわくしていたんだ。 だって、初めて人間と喋ってる。 ずっと想像していたものが今目の前に存在している。 あれが"足"っていうのかな…あれでちゃんと地面に立ってるんだ。 じーーーっと彼の下半身を眺めていた。 「何だよ…」 「いや、足…綺麗だなーって」 「…それは男に言う台詞なのか?」 「え?言わないものなの?」 きょとっと彼を見上げると驚いたような顔をしてふっと笑った。 あ、笑うと可愛い…。 思わずドキリと反応してしまった。 ずっとそんな顔してたらいいのに。 凄く凄く可愛いのに。 「変な奴だな、お前名前は?」 「…ユイ」 「ユイ、ね」 「貴男は?」 にっと唇の端をつり上げて 「瀧島 魁斗」 綺麗に微笑んで、私を見つめる。 「今は夏休みを使って両親と此処の別荘に遊びに来てる」 「じゃあ地元の子じゃないの?」 「まぁな、お前は?」 「え゛」 その問いに一瞬固まってしまった。 一応地元と言えなくもないんだけど私が住んでるのは深海でこの辺りではない。 けれど"じゃあ何処に住んでいるんだ"なんて聞かれたら困る…。 「地元だけど、あんまり外には出ないの」 「…へぇ?」 あ、しまった。妙な顔してる。
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