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人魚姫 2
深海の深い蒼の世界を見渡して私は一人緩やかな波に身を預けていた。
この蒼さよりもっと深く、綺麗だったあの子の瞳の色。
強くて。
こそこそ生きている私達なんかには真似できないほどの強さと光を持った瞳で。
笑った顔が印象的だった。
あんなに偉そうで生意気そうだったのに。
一瞬であんなにも印象が変わってしまうのか。
とても、綺麗だった。
「人間…か」
自分の私欲の為にはどんな汚い手でも使う生き物なのだと。
そう聞かされ続けてきた。
自分より下位の者を見つけると優越感を得る為に酷い仕打ちを与える。
そうやって、私達人魚も人間達に酷い扱いを受けた過去があるのだと…。
まるで遊ぶかのように殺された仲間達。
だから、此処の皆は人間を嫌っている。
"人間は何をしても許されるのか"
木を切り倒し、海を汚し、貴重な生き物まで絶滅に追いやった人間…。
そんな生き物がこの地球を支配している。
「あれは悪魔だ」
「あんな恐ろしい生き物が存在しているなんて考えたくない」
「絶対に、人間に見つかってはいけない」
そんな会話が繰り返される。
でも、本当にそうなのかな。
みんながみんな、そんなに悪い人間なのかな。
"俺は後2日間だけ此処にいる、また明日も来いよ"
もし、明日もあそこに行ったら…私は捕まってしまうのかな。
私を捕まえる用意をして待ち構えているのだろうか。
"人間"は残虐で恐ろしい生き物。
見た目に騙されては…いけない。
でも
彼の瞳は汚れていなかった。
まっすぐで、綺麗で澄み切っていた。
嘘を、つくような人じゃない…。
もう一度、会いたい。
「おばあちゃん…」
「どうしたの?ユイ」
「お願いがあるの…」
彼は大丈夫だ。
悪い人間じゃない。
私の勘が自分自身にそう告げる。
私が"人魚"だとバレない限りは…きっと大丈夫。
だから、
だからもう一度会いたい
近くに行きたい
人間と暮らし仲良くなってみたいの…。
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