人魚姫02

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「来たな」 「折角来てあげたのに、またそう言う態度ですか」 むぅっと頬を膨らませて彼に近付く。 地面を、歩いて。 よろよろとぎこちない動き。 うわ…本当にバランスが取りにくい。 海の中とは全然違う。 二本の足で浮力のないこの地上で自分の身体を支えるのってこんなに難しいんだ。 それを人間は赤ちゃんの時からやってるから凄いよね。 まぁ、歩かなければ生きていけないから。 私達が泳げるようになるのと一緒。 生きていく為の、本能。 「…お前は生まれたての子鹿か何かか?」 「し、失礼な!!!だって殆ど海にいたから…」 「泳ぎの方は得意みたいだな」 「え?」 「昨日、見てた」 ギクリと身体が震えた。 海面に上がって、舞い上がってすいすい泳いでいた。 あれを見られていた…? 「泳ぐのは…好きだから」 「ほんと、人魚みたいな奴だな」 ふっと笑って私の手を取り走り出した。 バランスを崩しかけるけど必死で立て直して彼の顔を見上げる。 とても、眩しい笑顔で… 「しょうがないから遊んでやるよ」 そんな、自分勝手な言葉。 何それ。 自分で"此処に来い"って言ったくせに。 しょうがないって何…私の台詞だよ。 だけど、 だけど、あったかい。 「私も"しょうがないから"一緒に遊んであげるよ」 お互い笑いながら走って、緑のトンネルを抜ける。 太陽の光に葉っぱに透けて、眩しいばかりの色に変化するこんな鮮やかな色見た事無い。 凄く綺麗…。 あちこちに感じる命の吐息。 動物。虫。植物。 そして、人間の彼と人魚の私。 色んなものがこの地球に存在している。 共存している。 だからお互いの領域を荒らしてはいけない。 上手く付き合ってはいかなければ互いが滅んでしまう。 地上で生活している彼。 海の中で生活している私。 今、一緒にいるこの瞬間。 凄く、わくわくする。 だんだん歩くのにも慣れてきて一生懸命に魁斗君の後を走った。 時折こちらを振り返り、私を待っていてくれる。 その度見せる笑顔が何だかくすぐったかった。
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