人魚姫02

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一緒に走って、岩場に登ったり、その上にある綺麗な花を見つけたり。 木が茂っている林で虫を見つけたり。 この植物はこういう名前なんだ、とそんな説明してくれたり。 知らないものが沢山だった。 初めて見る世界にわくわくしてこれ以上ない位に楽しかった。 「凄いね!魁斗君って物知り! 「そうでもねぇよ、お前が知らなさ過ぎるんだろ?」 「えー?」 くすくす笑って、また手を取って走り回った。 泥だらけになってくたくたになっても遊んだ。 一秒でも長く一緒に遊んでいたかった…魁斗君と。 獣道をずっと登って、崖のすぐ近くまでやってくる。 もう日は落ちようとしていて真っ赤な光が辺りを照らしている。 海面に反射する光。 飛び去っていく鳥達。 夕日に映し出される全ての風景。 「綺麗…」 蒼の世界が広がっている風景しかまともに見た事がなかった。 珊瑚や魚達も勿論綺麗だけど…。 初めて見るこの景色に目を奪われた。 こんなにも鮮やかな光が存在している。 可愛い、綺麗な動物達。 見た事もない植物、木の実。 そして… 「この場所は俺のお気に入り」 人間の、男の子…。 夕日に映し出された魁斗君の横顔はとても綺麗だった。 満たされていた。 心が。 こんなに良い人間も、いるんだ。 皆が皆、悪い人達ばかりじゃない。 どんな暗闇の中でも、どんな小さくても 輝くものは、存在する。 「此処に連れて来てやった事、光栄に思えよ?」 「その言い方は気に入らないけど…でも、嬉しい」 微笑んで、魁斗君の手を握る。 少し驚いたような顔をして、それでも握り返してくれた。 何だろうこの気持ち。 わくわくするの…身体が軽くて、今なら何処へだって飛んでいけそう。 魁斗君と一緒に。 でも彼は明日此処を去ってしまう…。 もう、会えない? 「明日も…会えるか?」 「でも、魁斗君明日帰っちゃうんでしょ?」 「夕方に此処を出るから…それまで」 「……」
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