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俺らの通う県立西高校は明日、試合だった。
地方の県立高校だが、西高は過去に何回か甲子園に出場している。
去年は準決勝で悔しい思いをしたけど、今年は決勝まで上りつめ、甲子園出場にあと一歩のところまで来ていた。
「明日勝てば甲子園か……」
軽くボールをトスして、潤が言った。
「今は甲子園やなくて明日の敵の事考えな」
潤の言葉に釘を刺すようにして自分にも言い聞かせる。
明日の試合相手は去年の甲子園出場校だった。
今年はピッチャーが豪速球を使うから、何度もビデオでチェックした。
「分かっとるって。龍がそう言うと、なんか怖いんよね」
潤は俺からのボールを受けとり、ワンテンポ間を開ける。
ボールを手の中でくるりと回して指の感覚を確かめるように見えた。
「何が怖いんや?」
潤の言っている言葉の意味が分からないから俺は素直に尋ねる。
「うん? そりゃそうやろ。お前明日も打つ自信あるんやろ?」
そう返されて頷く。
半ば呆れた顔を向けて潤は言った。
「チーム一の打率を誇る四番がそうやって言える余裕だよ」
「それが?」
まだ分からない俺を一瞥し、潤はボールを投げてきた。
「あっちの投手に恐怖を感じてない事は、点が入る。それでチームは勝てる……怖いやないか」
潤は上手く事が運んだら逆に気持ち悪い、と言っているようだった。
なるほど、あいつの言葉も一理ある。
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