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「なんだ。あっさり見つかったな。さっさと連れて帰るか」
刀をひいて男は言った。
「どうやって?」
「・・・」
少女の問いに男の動きが止まった。
「わからないのね?」
「さっぱりだな」
さも、当然だと言わんばかりに男は言った。
「あ、あなたね・・・」
「いくらなんでも、状況も分からないのに分かるわけないだろう」
伸びをしながらそれに答える男。
そしてコートの内ポケットからカロリーメイトを取り出して食べ始めた。
「そもそもなんで俺達はここにいる?」
「私が聞きたいわよ。あ、チョコレート味ね。一個ちょうだい。あなたも食べる?」
少女が尋ねる。
へっ?
「あっどうも」
訳が分からずカロリーメイトを頬張る俺。
気が付けば未知の生物蠢く謎の世界にたたずみカロリーメイトを頬張っている。
俺の認識が間違っていなければ俺は春輝。
男の筈だ。
自信がなくなって来た。
と言うのも先ほどからの難解な会話を注釈すれば、俺は人格が女性と入れ代わっているらしい。
てか人格入れ代わってないし。
ふっと自分の姿が普段の服装と違うのに気付く。
俺は、俺が、俺であるためのアイデンティティーである股間に手を当てた。
冷たい風が股を通り抜ける。
無い。
無い?
無ぃいぃぃ!?
無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い~
俺のアイデンティティーは崩壊した。
自己を確立するパートナーは、いつの間にか俺を置き去りにして消え失せていた。
「ぬぉおおお~う」
頭を抱えて遠吠えする。
まさか!一抹の不安と共に胸にかかる重みを確かめる。
胸を掴んだ場所には、ぷにぷにの小山が二つ。
なんじゃこれ~!
錯綜する思考の渦。
答えを求め暴走する手が、激しく自分の胸を揉みほぐす。
ぷにぷにぷにぷに
これは男の永遠の憧れ、胸の谷間と言うあれか。
俺はこの時、驚愕の出自を知る。
俺は私だった。
「俺これからどうして生きていけばいい?」
独白するように吐き出した叫びは、冷たい夜気に飲み込まれ消えていった。
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