12人が本棚に入れています
本棚に追加
それを歓迎するように原生林(ゲンセイリン)が口を開け、その体内へ手招きしていた。
原始の森は、樹木に天を覆(オオ)い隠され、建ち並ぶ木々達を深い闇の底に沈めている。
その表層だけが月下のもと、異質な巨木の塔を浮き彫りにし、その陰影(インエイ)を慄然(リツゼン)と刻んでいた。
極限まで肥大(ヒダイ)した木々を見上げ嘆息(タンソク)をつく。
そのまま闇の中へ歩を進めた。
奈落(ナラク)の底を思わせる闇は静寂(セイジャク)と湿気た外気をはらみ、ぬめった質感で体にまとわりついてくる。
双月の恵みはこの奈落の森には届かないようだ。
それでも入口付近はまだましだろう。
その先に続く無の空間に足を踏み込む気勢(キセイ)が削(ソ)がれかけた時、銃声が鳴り響いた。
いや銃声に似た何かが。
続けて2発。
ここが異世界だと言う認識を改めなければいけないかも知れない。
銃声にしか聞こえないその音を頼りに駆け出した。
続け様に響く薬莢(ヤッキョウ)の遠吠(トウボ)え。
かつて世界は丸いと言った偉人(イジン)がいた。
それと同じように、本当は月は二つあり、それが普通なのかも知れない。
銃声という科学の産声は、異世界には似つかわしくないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!