whale

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「すみません。」 「はい。」 「この辺に、面白い事を言う鯨がいると聞いて来たのですが、ご存知ですか?」 「ああ、面白い事を……えっ!?鯨!?」 「はい。鯨、ホエールです。」 「鯨って、こんなビル群が建ち並ぶ都会のど真ん中に鯨なんていませんよ。」 「いるって聞いて遠くから遥々やって来たんですけどね。いや、私もね。普通の鯨だったらわざわざ足を運ぶような間抜けな事はしません。ただ、面白い事を言う鯨と聞いたら、暢気にオリーブを育てている訳にはいかないと思いましてね。」 「育てていて下さい。正直どうしていいのか分からないんですけど、とにかくこんな所に鯨なんていませんし、鯨はそもそも喋りません。」 「はあ、でも万が一って可能性もなきにしもあらずではありませんか。都会の雑踏の中で踏み潰され、アスファルトにめり込んでしまった『人=金』のあなたの情報不足の可能性も捨てきれません。」 「何だか物凄く失礼ですね。時間の感覚すらゆっくりな環境で、のほほんと暮らしているあなたは、嘘の情報を掴まされたんですよ。つまり、騙されたんです。」 「私の育てたオリーブは、嘘など付きません!」 「むしろ、僕がそっちに行きたいわいっ!」
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