9人が本棚に入れています
本棚に追加
「次にまた同じことやったらどうする」
彼が言った。
私は、事態が飲み込めない。
次も何もない。
たった今、彼には捨てられたのだから。
「どうするんだよ」
もしかして。
もう一度のチャンスをくれている?
「早く言えよ。自分の口で」
彼のイラついた声が、大きさを増す。
――死にます。
そう言いたい衝動を、こらえた。
それは、正しい答えじゃない。
「……いなくなる」
嗚咽混じりに、声を絞りだした。
あなたの前からいなくなります。
「いなくなる、じゃねえだろ。ちゃんと言え」
言うべき言葉を、口にしようとするたびに、次から次へと涙があふれて。
声を、出せない。
「お別れ……す、る」
やっとに、絞りだした言葉。
けれど。
「お別れするじゃねぇだろ。『縁を切る』だろ」
ああ、そうか。
彼の怒りの前では、別れすら生温いのだ。
完全なる決別の誓い。
それをしなければならない。
「今度、自分を大事にできなかったら。あなたと、縁を切ります」
涙は、止まらず。
嗚咽も、止まらず。
「今、約束したからな」
彼の念押しに、かろうじて出した声を以て、答えとした。
最初のコメントを投稿しよう!