消えない傷

1/1
前へ
/72ページ
次へ

消えない傷

あたしの心には穴がある   どんなにごまかしても消えない穴が   すぐに、人を信用してしまうけど   すごく、怖いのだ   自分が壊れる前に線を引こう   それが、あたしの出した答えだった   この世の中に絶対なんてものはない   不変なものもない   ある日、突然母が消えた   父の暴力に耐えられなくなったのだ   理由がどうであれ、母は、あたしたちを捨てたのだ   自分を守るために   その後   母と子供たちだけで住んだ   あの頃のことは、よく覚えていない   今では、父と母はばかみたいにラブラブだ   それでも、あたしの心には   消えない傷跡が残ってしまった   人が、離れていくこと   そこに異常に怯える自分がいる   人の怒鳴り声をきくと、体が震える   暴力というものに、嫌悪する   歳をとり、あの頃の父と母の気持ちがわかるようになっても   どうしても、消えてはくれないのだ   人を好きになることにも、臆病になってしまった   変わらない想いはないから   冷めた気持ちの奥底で、愛に異常な夢をもつ   いつか、こんな凍った心が溶かしてくれる相手がくる   そんな想いを抱きながら、必死に傷を隠し、生きてきた   今では、痛みの感覚がない
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加