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――――あらあら困っちゃいますぅっ!大変ですぅ!
カウンターテーブルに伏せながら唸るのは、ここ三毛猫堂の店主。白銀の髪を携えた幼女はさながら猫耳魔法美少女のようである、にゃん。――――
などと不用意な描写を事件簿禄に書き足しているのが三毛猫堂店主、白井未華(しろいみけ)その猫である。猫はそんな喋り口調ではないことをこの僕が一番に理解している。
一面ガラス張りの扉から穏やかな陽光が差し込む。檜のカウンターテーブルが柔和に発色する。三毛猫堂は今日も同じ朝を迎え、同じ人間を排出していた。いつも変わらない三毛猫堂は今日も明日も回り続ける。
変わりゆくのはお悩み解決承ります、と書かれた看板だけだ。今日も人気の無い路地裏で雨風に晒されてその姿を変質させている。
看板の効果は有るとはいえない。ただ、この際人気がないだとか路地裏だとかはあまり重要ではない。設置場所はさしたる問題ではないのだ。看板の効果が無かったところで、さしたる問題ではないのだ。
それ以外の効果はきちんと働いているのだから。
そして、今日も今日とて被害と加害は回り続ける。今日はちょっと変わった、お客さんがこの三毛猫堂のガラス張りの扉を叩くことになる。
僕達は新たな被害者をこの三毛猫堂に迎え入れることになったのだが。
「三華さんどいて、そいつ殺せない」
猫の体で懸命に僕を抑えようともがく白井三華とそれを恐らく最高の笑顔でどかそうとする僕の眼前には血だらけの男とガラス片と化した三毛猫堂自慢のガラス扉が広がっていた。
三毛猫堂事件簿禄:失恋ラブソング
記述:藤城いりこ
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