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夕日から見える桜は満開に咲き誇り、花びらが光に照らされて綺麗に舞っていて、私たちは散歩の度にこの桜の木のところへ訪れていた。
「綺麗」
「本当だな」
私も主人も桜を見つめて桜の美しさを言う。
もう、散歩へ来ることなどないのかもしれない……
あなたと二人でいることも、なくなってしまうかもしれない。
「二年……経つのですね」
「二年?」
「私とあなたが夫婦になって二年経つのですね」
「そうか……まだ二年か」
私は突然口から二年という言葉を言った。
二年……まだそのくらいしか経っていない。なのに戦争は、主人を巻き込もうとしている。人を殺すために、主人と別れなければならないの?まだやりたいこともあるし、まだ一緒にいたい……
仏様は、私のほんの小さな願いも叶えてはくれないのでしょうか?
私がぼぅっと桜を眺めて考え事をしていた時、主人は言いました。
「文……もし、俺が戦争で死んでしまったなら俺を忘れて幸せに生きてほしい」
主人は私に真剣な顔して続けて話し出す。
「俺はいつ帰れるかわからないところへ行かなければならない。もしかしたら帰って来ないかもしれない……」
「……」
「必ずとは言えないが帰ってくる……と思う。しかし、死んでしまったら俺を忘れて幸せに生きてほしい。ただ、それまでは……それまでは……」
苦しそうにあなたは気持ちを吐き出している。
死んでしまったらなんて言わないで……お願いだから言わないで……
あなたのそばにずっといたいのだから。
「……待っていてくれるか?」
……そんなの当たり前じゃないですか……
私はあなたの妻なんだから、あなたの帰りを待つに決まっているでしょう。
「……私はあなた以外の人を夫にするつもりはありません。あなたは必ず帰ってきます。だから……私はこの桜の木の下で待ってますから、どうか……どうか帰って来て下さいね」
気がついたら涙目で笑っていた。
あなた以外、誰とともに生きるのでしょう。
悲しみなんて、すぐ終わるはず。あなたは絶対帰ってくるもの……
「文……」
「必ず…必ず…」
「分かった。必ず、この木の下に帰ってくる……君の元に」
あなたは私をギュッと抱きしめてくれた。私も主人の背中に手を添える……
仏様……
どうか、どうか
主人を無事にこの桜の木の下へ帰して下さい。
私のところに返して下さい。
私達その日“約束”をした……
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