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「……?」
泣いている私の目の前に何かが落ちて来た。
それは……桜の花びらだった。
主人と二人、“約束”をしたあの桜の木の花びらが一欠けらだけ、地面に落ちているのが見える。その瞬間、主人のあの日の言葉が聞こえてきた……
“文……もし、俺が戦争で死んでしまったなら俺を忘れて幸せに生きてほしい”
……
“俺はいつ帰れるかわからないところへ行かなければならない。もしかしたら帰って来ないかもしれない……”
…………
“必ずとは言えないが帰ってくる……と思う。しかし、死んでしまったら俺を忘れて幸せに生きてほしい。ただ、それまでは……それまでは……”……待っていてほしい……
「……ええ、待ちますとも……」
花びらに話し掛けるように私は言った。だってあなたが聞いてくれていると思ったから……
幽霊になってでも、あの場所で私は待ちますとも……それが“約束”と違っていても……あなたが来てくれると信じて。
桜の木がどうなったか気掛かりだったけれど……私はもう意識がなくなろうとしていた………
“約束”を守れなかった私をあの人は許してくれるのかしら?
私が死んだのを聞いて泣いてしまうのかしら?
そう思いながら……
私は静かに目を閉じた……
(完)
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