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クリームソーダの青の中に無数の泡たちが浮かんでいる。
その透明な肢体は儚く、刹那に消える泡もある。
私はストローを軽く噛み、その激しくせめぎあう泡を包みこんだ青い液体を、飲んだ。
心地よく炭酸は、その無数の泡たちは私の舌を優しく刺す。
もう、すべて終わったのだ。
拓哉は戻って来ない。
永遠に。
空になったグラス越しに、クリームソーダの青よりも、淡い、夏の空が浮かんでいた。
雲が溶けこんだ、夏空。
空の下にはインクを流しこんだような、青黒い海がさざめいている。
拓哉が波間に見えた気がした。
ボードに乗り、波間を漕いでゆく拓哉。
あの波を切り続けた腕も、もう戻りはしない。
海辺のカフェテラスで私と拓哉が過ごした時間も。
グラスの表面に雫が滑り落ちた。
急に強くなった潮風が私の髪を揺さぶる。
当たり前のことに私は気付く。
拓哉が死んでも、海はその波を損なうことなく、生き続ける。
おそらく私が死んだとしても、海はその律動を崩すことはない。
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