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子供の頃、両親の寝室にある、タンスの中に、私は見つけてはいけないものを見つけた。
コンドームだった。
カラフルなお花畑のような色合いを今でも覚えている。
それは駄菓子屋にある、毒々しい色合いのキャンディや粉末ジュースより、淡いパステル色で、おいしそうだった。
幼い私はそれをお菓子だと考えた。
そして、意識がなくなったのだと思う。
記憶はそこでとぎれ、私は病院のベッドに寝かされていた。
コンドームをのどに詰まらせ、入院したのは開院以来初めてだと母は言った。
そう、のどに詰まらせて苦しむ私を、お手伝いさんが母の勤務する救急病院へ、救急車を手配し、運んでくれたのだ。
幸い、生きている。
だが、目覚めたとき、母はがっかりしたような、笑顔をみせた。
それは笑顔ではない。
冷たい、笑顔の仮面だった。
私は母に好かれていないと、そのとき、初めて知ったように思う。
おしゃべりなお手伝いさんは、家政婦は見たというのりで、家のことを調べていたのだろうか。
小学一年の入学式、母はくることがなく、私はお手伝いさんに手を引かれ、はじめての学校への道を歩いていた。
そのとき、彼女は言った。
生みの親より、育ての親って言うけどねえ・・・
それは独り言なのか、わざと私に聞かせようとしたのか。
その言葉はいつも、私の心にひっかかっていた。
決定的な事実を教えてくれたのは、お手伝いさんではなく、親戚の叔父さんだった。
彼は父方の叔父で、インテリの父とは対照的に、漫画しか読まない人で、トラック運転手をしていた。
叔父さんの漫画で、私は初めて、セックスの仕組みを知った。
彼は性描写の過激な漫画を、いつも自室においていたからである。
十七歳で、あの家を離れるまで、私は両親と、独身の叔父、お手伝いさんと暮らしていた。
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