第五章:幻実の果てに…

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 懐かしい……。昔通った小学校。木造の校舎を使ったのは最初の1年間だけだったけど、ここの1階の教室は木漏れ日とそよ風に木の葉の擦れ合う音が優しくて 毎日が穏やかだったな―― 幸哉と紗香に初めて会ったのもここだったっけ。 ――――――――――――――  両肩に乗った母の手はゆっくりと両耳の下に移動し、俺の顎と首の間に親指を入れると、ぐっと上に向かって押し込んできた。 その瞬間身体中の力が抜けて、俺はテーブルに倒れこんだ。 だが、目は開いたままだった。  暫くして父が帰って来て母と話をし始めた。 「本当に良かったのか?」 父は険しい表情で母を見つめている。 「えぇ、あの子はもう凜じゃないもの いくら記憶を移したって言っても年々成長していくあの子は……私の知っている凜と離れていくの、あの子は!あの子なのよ」 母はそこまで言うと目頭を押さえて俺のとなりに座った。  父は黙って母を見つめていたが、暫くして「明日、凜の埋葬にふさわしい場所を探そう」と母の耳元に囁いた。 ―――――――――――――― 目から熱いものが出てきて 弧を描いて雫になった。 手に触れるそれは 今まで涙だと思っていたものだった。 「こんな偽物まで用意して…」 それが愛だったのか 今では解らない。
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