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懐かしい……。昔通った小学校。木造の校舎を使ったのは最初の1年間だけだったけど、ここの1階の教室は木漏れ日とそよ風に木の葉の擦れ合う音が優しくて
毎日が穏やかだったな――
幸哉と紗香に初めて会ったのもここだったっけ。
――――――――――――――
両肩に乗った母の手はゆっくりと両耳の下に移動し、俺の顎と首の間に親指を入れると、ぐっと上に向かって押し込んできた。
その瞬間身体中の力が抜けて、俺はテーブルに倒れこんだ。
だが、目は開いたままだった。
暫くして父が帰って来て母と話をし始めた。
「本当に良かったのか?」
父は険しい表情で母を見つめている。
「えぇ、あの子はもう凜じゃないもの いくら記憶を移したって言っても年々成長していくあの子は……私の知っている凜と離れていくの、あの子は!あの子なのよ」
母はそこまで言うと目頭を押さえて俺のとなりに座った。
父は黙って母を見つめていたが、暫くして「明日、凜の埋葬にふさわしい場所を探そう」と母の耳元に囁いた。
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目から熱いものが出てきて
弧を描いて雫になった。
手に触れるそれは
今まで涙だと思っていたものだった。
「こんな偽物まで用意して…」
それが愛だったのか
今では解らない。
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