種はハクビ、名はキンコ

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種はハクビ、名はキンコ

「はあ、はあはあ」 騒々しくマンションの厚く重い戸を閉め、濡れた服など気にせず部屋へ上がる。胸には大事に路地裏で見つけたあの子を抱え、脱衣場で服を脱ぎタオルを二枚持って客間へと足を運ぶ。 「くぅーん」 今までワタシの腕のなかで小刻みに震えていたものが弱々しく鳴いた。 タオルを一枚はワタシのもう一枚はそれの頭に被せ濡れた部分の水を拭き取っていく。 「ねぇ。君はなんなの?ワタシはアナタを知らない」 知らない。こんな生物は知らない。見たことも聞いたこともない。始めは鳴き声で犬かと思ったけどワタシはこんな犬は知らない。目を見たときは猫かと思ったけどワタシはこんな猫は知らない。部屋に連れ込み明るみで見たときは狐かと思ったけどワタシはこんな狐は知らない。 「アナタはいったい…ッ!!」 その瞬間、騒々しく部屋の戸を叩く音が部屋に響き渡る。
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