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肌に纏わりつくような湿っぽい空気が嫌だ。妙に生暖かい雨が嫌いだ。しとしとと暗い空から落ちる滴の一つ一つに文句を言って追い払いたい。もしもそんなことで梅雨がどこかに行ってしまうというなら私は何も厭わず、声を大にして雨に文句を垂れただろう。
私は梅雨が嫌いな人間であった。
この異様な匂いを含んだ鉛色の雨はいつだって私の心を暗くする。
きょうび恋人に振られた身であるため、その落ち込みようは殊更な物である。
『貴方って何を考えているか分からなくて怖いの。本当に私のこと愛してくれてるの?』
目を潤ませながら彼女が放った言葉を思い出し、より一層憂鬱になる。
私は傘も差さずに駅前の通りを歩いている。というのも私程涙に嫌われている人間はなく、悲しみの涙を流すのが躊躇われたため代わりに空に泣いて貰おうという算段だった。
それに気が滅入っている時は何も考えずに、雨に濡れてみると存外に心が晴れてくる。子供みたいに水浸しになっても気にしないという行為は少し背徳的で、妙に心地よい。
『愛してるなんて嘘よ。それなら何故貴方は私と一緒にいる時笑わないのよっ』
私がすかさず愛しているさと答えると、彼女もまたすかさず否定した。
それを見て破局を確信した。もう彼女は私の言い分など聞く耳も持たないと確信し、別れを切り出した。どうして私が君の前で笑わないかなんて説明したところで、君は既に自分の世界に入り込んでおり、周囲の意見なぞ受け付けはしなかっただろう。
私は彼女の様に勝手に自己完結をさせて悲劇のヒロインを演じる人間はとんと苦手である。
彼女の中で私はおそらく、冷徹人間とでも思われていたのではないか? そうでなければ人に心を開けない可哀想な人か。
どちらにせよ彼女の中でのロマンティックなドラマを演じる、一つのピースでしかないのは間違いないだろう。
まったく憂鬱だ。
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