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「あの、貴方は時間ありますか?」
不意に女は私の右の袖口を掴んできた。両手で、しかし弱々しく。軽く引っ張れば、簡単にふりほどける程度の力で。
「服がびしょ濡れで、貴方は気持ちが悪いでしょうし、私の家に寄って行きませんか?」
欠けている。決定的にこの女には何かが欠けている。それが何だとははっきりと言葉には出来ないが、確信している。
面白いと思ったのだ、私は。この女をもっと観てみたい。普段の様な中途半端な想像ではなく、徹底して背景を観てみたいのだ。そしてそれが可能な状況下に私はいる。
そう考え至って、私は彼女の家に招待されることに決めた。私がその旨を女に告げると、女の頬は嬉しそうに僅かに綻んだ。
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