ー友ー

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「胡月、どうした?」 夜魅が帰った後、木蓮の木の下に佇んでいた 「彩月…」 「お前にしては、珍しい表情をしているな」 確かに、今の胡月は、とても辛い顔をしていた 「俺も一応人間だからな」 「まぁな」 彩月は黙って胡月を見ていた 「何だか、やり切れないよ…」 胡月がようやく口を開いた 「何に対して?」 「なぁ、彩月…人間は厄介だな」 「ん?」 「敵だとわかっていても、一緒にいれば情がわいてしまう…愛ではないんだ…」 「夜魅?」 突然、風が吹き、胡月の長い髪を揺らす 髪をかきあげながら、寂しそうに笑う 「翔の父親に好きなように扱われて…そうしなければ生きて行けないなんて、残酷だよな」 「そうだな…夜魅は女の子だしな」 彩月の言葉を聞いて、胡月は笑う 「知ってたんだ」 「まぁな…」 黒い雲が空を覆い尽くし 空が暗くなってきた 「敵…なんだよな」 「ああ」 そんな胡月を見て、彩月は言った 「もう、会わない方がいいな」 「ああ…」 「これ以上、夜魅の事を知ってしまえば、お前は夜魅を殺せない」 「…………」 「その隙間をつかれて、お前が命を落としたらどうする」 「わかってる」 頬に水滴が落ちてきた 「夜魅の気持ちはわかってるんだろ?」 「ああ」 「だったら、わかるよな?」 「ああ…」 「時間がないぞ、早く気持ちを固めろ」 そう言って、彩月は部屋に向かった 「どうして…俺は…」 雨が強く降り出し、胡月の髪を濡らしていく 冷たい雨は、胡月の熱を奪い、体を冷やしていく 「敵…なんだよな…俺が守るべきものは、夜魅ではない…」 胡月は夜魅に対してわいてきた情をこの雨と共に、全て流し去る 「忘れるんだ…」 自分に言い聞かせるように、何度も呟いた
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