ー彩ー

10/16
前へ
/861ページ
次へ
夜中に銀月が一人、強い酒を飲んでいた こんなもの、気休めにもならないのはわかっている いくら飲んでも、酔えない酒をひたすら飲み続ける 飲んで楽になれるのなら 楽にしてくれ… 酔って翔を忘れさせてくれるなら、早く忘れさせてくれ 「酔えるわけがない…」 グラスを握りしめる手が、微かに震える そしてまた、一気に喉に流し込み、グラスにつぐ 「無茶な飲み方は感心しないな」 胡月がやってきた 「フッ…文句でも言いに来たのか?」 そして、また喉に流し込む 銀月がボトルにのばした手を、胡月が掴む 「飲み過ぎだ」 「飲みたいんだよ」 「銀月…何故酒に逃げようとするんだ?気持ちは決まっているんだろ?」 胡月の言葉を聞いて、銀月の手がとまる 「お前が決めたんじゃないのか?」 「ああ…」 「翔を泣かせて、お前自身を追い込んで…辛いのはわかっていたんじゃないのか?」 「わかってる…わかってるさ」 「俺は、何も言わないといった…お前の気持ちもわかっているつもりだ」 「ああ」 「だったら…こんな酒に逃げずに、もっとしっかりしろ」 「駄目なんだ…いくら耳を塞いでも、翔の声が聞こえる」 「翔はお前を呼んでいるのかもな…」 「翔…」 「銀月…彩月を選ぶならそれでもいい…だが、翔を泣かすな」 「泣かしたくて泣かしているわけじゃないんだ」 「本当に…いいんだな?」 銀月は小さく頷く 「俺にはわからないね…今、お前のしている事は、みんなを苦しめているだけだ…特に翔をね」 「もう、忘れる…忘れるようにする」 「そうか…果たしてお前の考えを知って、喜ぶ奴がいるのかが疑問だけどね」 「約束なんだ…」 「わかった…もう何も言わないよ」 飲み過ぎるなよ…と言い残し、胡月は消えた 「俺は…あと何回翔を泣かすんだろう」 グラスに酒をつごうとした手を止め、ソファーにもたれかかり、天井を見つめた 「最低だな…俺」 そう言いながら、翔の部屋を見つめていた
/861ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4055人が本棚に入れています
本棚に追加