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演技ではなく、本当に忘れているのだ。
そして、その母も赤子も娘の身体の中に入り、血となり肉となり、私の意識だけが残っていた。
その意識も、娘がまた、屋敷での暮らしに入り、徐々に平穏になっていくと、薄れるようになった。
それは、私が娘と同化しているのか、娘に取り込まれようとしているのかわからなかったし、娘の中に意識があると言っても、娘をコントロールできるわけではなかった。
やがて、娘に男の子が産まれた。
全ての村人は私の存在を封印して、娘を新たな姫として、崇め奉った。
形上の当主は那須下野守だったが、重要な事はほとんど私が決めていた。
私がいなくなった今、実権はm那須下野守に移るべきだったが、自然な流れで、それは娘というような風潮に周りがなってしまった。
それが面白くなかったのか、那須下野守は、周りに誰もいない時、娘やその息子に辛くあたるようになった。
酒にも溺れ、時には暴力も振るうようになった。
私の意識は、この後、どのように那須大八郎、下野の国へ帰ってしまった大八郎に、復讐ができるのだろうと考えながらも、意識が娘に同化していくことを感じていた。
驚いたことに、那須下野守に辛くあたられている時の娘の感情は、怖いとか哀しいとかではなくて、嘲笑していたり馬鹿にしていたりしているような感じだった。
月日は流れて行き、そんな状態のまま三年程が過ぎた。
私はまだ、娘の中で生きている。
娘であって娘でない。
私であって私でない、蛇姫は、私なのか娘なのか、それぞれがそれぞれの応対の仕方で、私になったり、娘になったりしていた。
ただ、私は直接しゃべることができないので、やはり娘なのだ。
そして、確実に私は娘の中で消え失せようとしていた。
それでもあの事件があってから四年以上、こうして娘の中で生き続けている。
ある日、三歳にも満たない息子が、焼け火箸を左足にあてられ、火傷を負った時には、この世の物とは思えない怒りが込み上げてきた。
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