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娘の顔が紅潮し、鬼のような形相になって私を見つめて、わなわなと震える。  顔は鬼だったが、眼は蛇だった。  それでこそ私の娘だった。  怒り、憎しみ、その思いが湧き出ている顔は私と同じだった。  私、そっくりだった。  誰も見わけがつかないだろう。  最後の一押しだった。  私は枕元に置いてあった、天国丸の箱をわざと倒した。  倒した拍子に、蓋が開き、その刀身が見えた。  蓋が開くようにわざと結んでいた紐を緩め、天国丸を包んでいた布切れをぞんざいに被せるだけにしていたのだ。  実際、もう産まれそうだった。  手足をばたつかせて、苦しむ。  私は大声を出して、苦しみながらも、どんなふうに婿を誘惑したか、いつ会って、婿がどんなことを言ったかなど、事細かく、娘が怒りに打ち震える様を見ながら叫んだ。  いや、もう、自分も苦しくて、娘の事は見ていなかった。  ただ、自分に触れていた娘の手が、強くそして、堅く、震えて感じられたので、瞼の向こうに、娘の顔を想像することができた。  最後の一押しだった。  この炭焼き小屋で何度も婿と会っていたこと。  そして、今、まさに産まれようとしている赤子は、間違いなく那須下野守の子だと。  わなないていた娘の身体がぴったと震えるのをやめた。  私の身体がそれを感じていた。  その瞬間、私の股間の奥で何かが弾ける音がした。  そう、子供が出て来たのだ。  凍りついていた娘は、私の股から出て来た赤子を見て叫んだ。  産まれたての赤子の声は聞こえなかった。   ぎゃ~っ!  私は、力を振り絞って、身を起してその股間の部分に、未成熟の鶏の卵から出て来た雛のような物体が転がっていた。  雛にしては大きいが、それは私の子だった。  どす黒く、胎盤に覆われていたが、顔が確認できた。  周りには血なのか水なのかわからない液が入り混じって、どろどろになっていた。  死産だった。
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