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さっきまで動いていたのに、産まれてくる時に死んでしまうのか、時間がかかったことが影響なのか、今では帝王切開や、様々な救護の方法はあるが、自然に任せていた昔は、そんなに珍しい事ではなかった。
私は、それよりも、叫んだ娘に注目していた。
娘が叫んだのは、産まれてきて産声をあげることのできない、赤子の顔が那須下野守そっくりだったからだ。
私は一目見てそれに気付いていた。
娘が気付かぬはずがない。
ぎゃ~っ!
ぎゃ~っ!
もう、完全に気がふれてしまって、両目は上を向いたり、下を向いたり、また、右と左が遠く離れて、あらぬ方向を向き、髪を振り乱し、暴れまくる。
さっきまで、私が暴れていたのと、逆になってしまった。
そして、私の枕元にあった、天国丸に手を伸ばした。
復讐はここでやっとスタートラインに立った。
私は、声が届くかどうかわからなかったけど、私が死んだら、そこの小箱を開けて、手紙を読みなさいと言った。
それが聞こえていたかどうかはわからない。
「殺してやる!」
というような意味の言葉を叫び、娘は、今、死産であったが、出産を終えた私の股に、天国丸を突き刺した。
鮮血が、辺り一帯に飛び散った。
考えてみたら、死産でよかったのかもしれない。
どうせ、赤子もこうして殺される身だ。
股間だけでなく、今まで赤子が入っていた、腹も刺された、何度も何度も、天国丸を突き立てられた。
血飛沫が私の顔に飛び、眼球が真っ赤に染められた。
そこからは赤の世界だった。
赤い世界の向こうで何かが行なわれている。
私の腹を何度も何度も、叫びながら刺している娘。
天国丸で、何度も何度も。
腹はもうぐちゃぐちゃになって、刺せなくなったのか、次は胸、首、腕、身体のあらゆる場所を、切り刻まれた。
最後に、顔に突きたてられる。
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