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それは、愛する彼を大八郎に殺された時の私の感情とよく似ていたので、共感することができた。  その怒りの気持ちと共に、私の消えて行きそうだった意識が、またはっきりとするようになった。  復讐、怒り、罵倒、そんな娘の思いが私を蘇らせた。  蘇ったからと言ってどうなるわけではない。  ただ、そこに私の意思が働いていたのか、わからないが、娘の那須下野守に対する、復讐計画が立っていた。  どんな内容かはその時に私はわからない。ただ、漠然とそういう気持ちがメラメラ燃え上がっているのを感じるだけだ。  私がそれよりも驚いたのは、娘の息子、私にとっては孫になるのだが、孫の足に火傷の痕ができてしまった。  ちょうど左足の甲にあたる部分なのだが、そこがぽっかりと、今で言うと五百円玉大くらいの火傷痕になっていて、娘がある日、それを見つめていると、そこに顔が浮かび上がってきた。  私は、娘の眼を通して、その顔を見ていると、その顔がだんだんはっきりと、眼、鼻、口と分かれ、あの人の顔となった。  そう、大八郎に殺された、あの人の顔に。  その姿は、炭焼き小屋に籠る前、蝸牛の殻に見た、彼の顔そっくりだった。  ただ、違うのは、その口が開いたことだった。 「復讐は始まった」  昔の言葉だったのでどんな風だったか忘れたが、そのような事を娘の眼を通して、私に言ったのだ。  私はこの前まで娘と同化して忘れてしまいそうだった復讐心を思い出し、生きなければ、何百年でも生き長らえて、那須大八郎の子孫を根絶やしにせねばという思いが、再び、メラメラと燃えあがったのだ。  その後の行動は、まるで、私が行なっているかのようだった。  私が娘を操っているようだった。  彼とも会話ができるようになった。  その時は、大抵、私は、娘の瞼の部分にいる。意識がそこにいることがよくわかった。娘を通して、孫の足にとりついた彼と話すことができた。  娘がしゃべっていることが、私のしゃべっていることになった。
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