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本を閉じると視界が妙に明るいことに僕は気付いた。
太陽光線が窓の外から店内を侵食している。
冷めきったコーヒーを一息で飲んで、カバンに本をしまってから外に出た。
生暖かい空気が僕の身体にまとわりつく。
見慣れたはずの現実達が異邦人の群れとなり僕を取り囲んでいく。
彼らは巨大な鏡を置いて僕に現実を見せつける。
じわじわと僕が身体に戻ってくる。
――嗚呼、僕はただの労働者にすぎないんだ。
空を仰ぐと飛行機雲が一筋延びて世界を両断していた。
台風一過の空は澄みきった青で、朝の不機嫌なグレーが嘘みたいだ。
これが現実と溜め息を吐いて腕時計を確認する。
仕事場までたっぷり30分は掛かるだろう。
タクシーを拾いたいが我慢する。
この仕事はタクシーを使う事を良しとしない。
なに、どうせ一時間遅れようが二時間遅れようが結果は同じだ。
僕は駅前の騒がしいロータリーを抜けて住宅街を目指した。
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