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熱い湯を全身に叩きつけた。理緒にシャワーを浴びてくるように忠告されたのだ。
頼久の話。
どこかおかしい。
話を聞いて、引っかかっている事がいくつかある。それが何を意味するかが今の所わからない。
考えを巡らせながらバスルームを出ると、圭の指定席である二人掛けソファーに頼久が座って、コーヒーを口にしていた。
テーブルの上は綺麗に片付いている。先ほどまで吸い殻で溢れていた灰皿が、電灯の光を反射している。
頼久の隣に腰を下ろした。キッチンにいた理緒がアイスティーを運んで来る。
コーヒーは昔から苦手だった。飲めない事は無いが、美味いとも思わない。
アイスティーのグラスを手に取りながら、テーブルの向こうの、さっきまで頼久が座っていた一人掛けのソファーに目をやった。
視線に気付き、そこに座っていた令子が口を開いた。
「初めまして。進藤令子と申します」
「二宮圭です。よろしく」
「だらしない男だが、仕事はできる」
横から頼久が口を挟んでくる。
キッチンから理緒が戻ってきてテーブルの脇に立った。ソファーの席は三人分しかない。
とりあえず話を切り出す。
「何者かに狙われている、という話じゃなかったのか? どうやってここまで?」
煙草を口にくわえ、火を灯そうとした。理緒がわざとらしく咳払いをする。
煙草に火はつけず、そのままテーブルの上に置いた。
「望月さんの奥さんに協力してもらいました。奥さんが私を乗せたふりをして車で出かけた後、裏口に呼んであったタクシーにすぐに乗り込んで、下のカフェまで」
「よく襲われなかったな」
「女房も無茶をする」
令子の顔を見ると、不安なのか今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。
情に流されるな。何度か心の中で呟く。
「家にいるよりはここがマシだろう。しばらくはここで寝泊まりすればいい。この男がいつもいるし、理緒ちゃんもいる」
頼久が令子に笑顔を向ける。圭に向かって話す時とは声色が違う。
「勝手に決めるな、頼久。俺はやるとは言ってない」
「圭さん」
「お前な」
頼久と理緒が非難の視線を浴びせてくる。刺すような視線の中で、アイスティーを口にした。
「……話だけは聞いてみようか」
そう言わなければこの場を繕う事はできそうにない。
令子が頷いて、静かに襲われた時の話を始めた。
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